体外受精という言葉を、初めて先生から告げられた帰り道。
ただ来た道を、反対に歩いているだけ。
それなのに、見える景色はまるで違っていた。
12月の空気は冷たく、ぼんやりとした頭を少しだけ冷ましてくれる。
とりあえず、落ち着こう。
先生が話していたのは、“可能性”の話。
――私、妊娠するのって難しいの?
ふと湧いたその疑問に、胸の奥がずしんと重くなった。
そのまま家に帰る気になれなくて、私は駅前のカフェに入った。
こぢんまりとしたカフェには、冬の寒さを避ける人たちのぬくもりが満ちていた。
横並びのカウンター席がひとつ空いていて、私はそこに腰を下ろす。
あたたかい飲み物を両手で包み込みながら、ホッとしてみようと一口飲み込む。
「おまごちゃんがもう幼稚園なの!」
「やんちゃさんで大変よ!」
隣の席から聞こえてくるのは、おばあちゃんたちの賑やかな会話。
「大変」と言いながらも、笑顔の奥に愛しさがあふれているのが伝わってくる。
――いいなぁ
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